「あんぱん」は戦前、戦中と戦後の正義がひっくり返った世の中を生き抜いた主人公が、ひっくり返らない正義を周りの人々の温かい視線の中で形にして行く物語でした。

「ばけばけ」は始まったばかりですが、明治維新で世の中が一新されて翻弄される士族の姿も描かれています。(オープニングのキャスト紹介の画面の字が小さくて、まるで毎日視力検査を受けているようです)

日本の近代には「明治維新」と「敗戦」という二つの大変革がありました。その時代を生きた人でないと分からない、やるせなさがあったことと思います。それでも生きるために、大半の人々は必死に時代に適応してきた人生だったと思います。

翻って現代はどうでしょうか? 私にはバブル崩壊後の金融危機以来、第三の大変革が制度として着々と進んでいるように見えます。1995年と2025年では随分と違った世の中になりました。テクノロジーの変化もありますが、ビジネスマンに求められる意識や行動様式、価値観が変わりました。

日本版金融ビックバン以来の株式市場改革の影響は絶大です。日本はすっかり株主天国の市場になりました。

その大変革の中で一部に大成功した人もいますが、効率や早期の成果を求められるあまりに、余裕がなくなり笑顔が消えた人々が増えました。都心を歩くと険しい顔をした不機嫌な多くの人々とすれ違います。心身に溜まったストレスが心配になります。

大変革といえば、秋の夜長(すっかり寒くなり体感的には冬ですが)に島崎藤村の『夜明け前』を読みたくなりました。学生時代、社会人になってからと二度ほど途中で挫折した長編小説です。明治維新に翻弄された人々が描かれています。

過去の大変革期を生きた人々の心の動きや生き様が気になる今なら、最後まで集中して読める気がしています。 『夜明け前』(中央公論連載1929年~1935年)が映画化され公開されたのが、1953年だったことには深い意味がありそうです。