講談社学術文庫に収められている『私の個人主義』は漱石が晩年(1917年)に行った学習院大学での講演です。エリートとして社会へ出ていく学生に向けて、自分の経験や留意点を語っています。

40数年前にどこかの大学入試の過去問で、一部を読んだ記憶があります。

今回、初めて全体を読みました。その主張に吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』(1937年)との共通点を感じました。

個人主義が社会の中で成り立つためには、他者の個性も尊重する必要がありますし、自分も構成員の一人としてとらえるような俯瞰的な視点が必要です。

翻って2024年の今はどうでしょうか。ひたすら経済合理性や短期的成果を追求する余り、日本の個人主義は、他者の個性尊重も他者への配慮も顧みないケースが増えているように感じます。

これも個人主義が未成熟なままに、アメリカに倣ってひたすら新自由主義を推し進めた結果でしょうか?

1万年続いたとされる縄文時代や仏教の教えがDNAに刻み込まれている多くの日本人には、何でもお金の現在価値に換算される世界は、居心地が悪く感じられるのでしょう。

振り子の揺り戻しを期待したくなります。